LEARNING CONTENTS

取り組み事例(アスリート)

萩原智子さんに聞く
水泳大会での脱プラアクション

 

これまでアスリートとして様々な社会課題に取り組んでこられたシドニー五輪競泳日本代表の萩原智子さん。

現在はスポーツ界横断の使い捨てプラスチック削減プロジェクト「HEROs PLEDGE」のパートナーアスリートとして、水泳大会での脱プラアクションにも率先して取り組まれています。
その思いや成果について、詳しくお話を伺いました。

◆スポーツには社会課題を解決できる力がある

ーー萩原さんはもともと「ハギトモスマイルプロジェクト」と銘打って、インクルーシブ、フードドライブなど、水泳競技以外の部分にも目を向ける多角的な活動を展開されてきています。まずはそういった方向性に至るきっかけや思いについて教えていただけますか?

萩原:子どもから大人まで「スポーツには社会課題を解決できる力がある」ことを共有していきたいという思いで活動しています。最初のきっかけは、現役を引退後に山登りをはじめたら、当たり前ですが山頂では水の確保が大変だったんです。それまで私は水の中で泳いできて、水があるのが当たり前だったのですが、考えてみれば、水の中で泳げることは「豊かさの象徴」のようなものですよね。この先、地球温暖化や災害などによって「水戦争が起きる」とも言われている中、私は水の中で生きてきた人間として、水の大切さを伝えていきたい、と感じました。

 

ーーそこから、水の大切さと感謝の思いを伝える「水ケーション~森と水の授業」の取り組みをはじめられたわけですね。

萩原:はい。引退後は各地で水泳教室をやらせていただきましたが、ある時、「水泳教室だけではもったいないな」と思ったんです。泳ぎを教えるだけでなく、みんなと一緒に何か考えられる時間があればいいなと。そこから、水ケーションや「水泳×食育」など、様々なテーマに取り組むようになりました。

 

ーー新たにHEROs PLEDGEにもパートナーアスリートとして参画されて、どんな思いでプラスチック問題に取り組まれているのでしょうか?

萩原:尊敬している井本直歩子さんに声をかけていただいて参画したのですが、スポーツというのは子どもも大人もみんなが集う「場」や「大会」があって、情報拡散や共感が生まれやすいと感じています。私自身もプラスチック問題の解決に向けて一歩を踏み出したいと思いました。たくさんの人が集まる大会で取り組みを実施すれば、かなりの人数に広まるな、というイメージが浮かんで、ぜひ挑戦してみたいと思いました。

 


 ◆水泳大会での脱プラアクション

ーーそこからすばらしいスピード感で、山梨県、福島県、愛知県で開催されている萩原智子杯水泳大会で様々な取り組みをはじめられましたよね。

萩原:使い捨てプラごみを減らすために、競技役員さん用のお弁当をリユース可能なお弁当箱で提供したり、ペットボトル飲料も紙パックに切り替えたほか、マイボトルの持参を呼びかけて選手たちへのアンケートなども実施しました。会場では「プラスチック・クイズ」も行って、参加者にマイボトルをプレゼントするといったたのしい企画も。


マイボトルの持参を呼びかけてアンケートを実施


「プラスチック・クイズ」に取り組む選手たち

ーーのべ1000人を超える規模で、これだけの取組をどのようにして実現されたのでしょうか?

萩原:みなさんがヒントやアドバイスをたくさん出してくださいましたので…! 私は最初のアイデアを出すのは好きなのですが、それを形にしていく上ではHEROs PLEDGEのみなさんをはじめ、本当にたくさんの方々からアドバイスをいただきました。各県の水泳連盟の方々や関係者の方々とも1020年以上にわたる関係性があったので、理解、共感していただけたことに感謝の気持ちでいっぱいでした。

 

ーーたくさんの関係者の方々に説明して理解していただくには難しさもあったのでは?

萩原:私自身の想いを関係者と共有し、それを各方面に伝えてご理解をいただき、実施できる方向性で動き出せました。理解者を増やすことも大切ですが、実際に形になるよう一緒に動いて下さる方々の支えが大きかったです。

「子どもたちが100年先も安心安全な環境でスポーツを楽しめるように」を心に留め、SNSも含めて発信していきました。関係者にも、参加者にも、少しずつ浸透していったと思います。

関係者の方々は「ただの水泳大会ではなく、社会問題に目を向けて、競技力向上だけではなく人間力の向上も視野に入れた大会開催」と理解してくださっていましたので、今回のプラスチックの取組についてもポジティブに受け入れていただけました。

 

ーー反応や手ごたえはいかがでしたか?

萩原:子どもたちの反応はとてもよくて、プラスチック・クイズも大いに盛り上がるなど手ごたえを感じましたし、関係者の方々からも予想外のうれしい反応がありました。スタッフ用のお弁当は、リユースのお弁当箱を別途手配して、それをお弁当屋さんに届けて中身を詰めていただく形だったのですが、今年もそれを準備しようという話になった際、愛知県の水泳連盟の会長が「近くにあるこの仕出し屋さんなら、わざわざ弁当箱をよそで手配しなくても、最初からきちんとした弁当箱に詰めてあとから回収してくれますよ」と情報を共有してくださって! 一歩踏み出してみたことで、「来年はこんな取り組みもできるかも?」といった声も出てきたり、困っていたら助け舟を出してくださる方が出てくるなど、すごくありがたかったです。「悩みや課題は周りにどんどん話せばいいんだな」とあらためて実感しましたね。

 


配布する弁当はリユースの弁当箱入りに、飲料は紙パック入りに切り替え


◆前に踏み出すことで生まれる循環

 ーー最近の環境問題をどのように見ていらっしゃいますか?

萩原:日々、異常気象や様々な災害のニュースが目に入ってきて怖いです。私たちの時代でここまで来てしまって、この先もっとひどい状況になったら、子どもたちはどうなってしまうんだろうと。生きていくのも難しい環境になれば、それこそスポーツどころではなくなります。私には一体何ができるだろうと考え、水泳大会での様々な取り組みに加えて、生活の中でもいろいろ意識して環境配慮型の商品を選んだりもするようになりました。

 

ーーたとえばどんなものを使っていますか?

萩原:靴は「ペットボトル何本分の靴」という感じの再生プラスチックで作られたものを履いたり、お肉は私の地元・山梨県に「甲州ワインビーフ」という循環を大切にしたお肉があるので、山梨県出身者としてそちらを選んだりもしています。洗剤は、スポンサーでもあるサラヤさんの環境配慮型の「ヤシノミ洗剤」を愛用しています。ボルネオの環境保護活動もされていてすばらしいんです。

 

ーー環境配慮型のスポンサーがついてくださるのは、環境問題に取り組む上では大きな追い風ですね。

萩原:そうなんです。ありがたいことに、「HEROs PLEDGEに参画します」と言ったら、これまで接点のあった様々な企業の方々がとても喜んでくださって、実際にスポンサーになってくださったり、「実は私たちもこういうことをやっているんですよ」「こういうことを一緒にやりたいです」といった提案や情報をどんどん持ち寄ってくださるようになったんです。

不要になったゴーグルを集めてリサイクルするデサントさんのゴーグル回収活動もその一環ではじめることができましたし、マイボトル推進に不可欠なウォーターサーバーの設置も、もともとお付き合いがあったアクアクララさんからご協力いただけることに。スポンサーの伊藤園さんからは「ペットボトルを削減するなら、水に溶かして使う粉末タイプの抹茶を準備しましょうか?」というご提案をいただくなど、とてもいい循環が起きました。


ゴーグル回収箱


会場に設置したウォーターサーバーでマイボトルに給水する選手

 

ーー既に充実した取り組みをはじめられている中、今後目指していきたい方向性はありますか?

萩原:環境の話は1回2回ですぐに伝わるような話ではありません。生活の中でどういうアクションにつながるのか、いかに自分事として考えていけるかが大切です。水泳大会の1日だけでは伝えきれない部分もあって、大会での取り組みというのは単なるきっかけでしかありません。でも、そこを伝え続ける、やり続けるしかないですし、理解者を少しでも増やしていくというのは大きなテーマです。

HEROs PLEDGEはスポーツ界横断のプロジェクトですので、そのすべての競技にはたくさんの競技人口とファンがいて、それら大小さまざまな大会や練習試合での小さな小さな積み重ねが文化になっていくと私は思うんです。できることを当たり前に続けていくための意識づけができるように伝え続けていきたいです。

私の故郷山梨では「やまなし大運動会」というイベントを開催しています。子どもだけではなく、一部保護者も参加できるプログラムも作り、盛り上がっています。保護者もまじって一緒にやっている姿を見て子どもたちがすごく喜ぶんです。「お父さんががんばってる」「お母さんたのしそう」-そういう空間は子供にとって、きっととても貴重なんですよね。大人がたのしみ、アクション、リアクションを重ねていくことで、子どもは変わっていく。そこを大事に考えて、子どもだけではなく、大人だけでもなく、親子で一緒にできるアクションも考えていきたいと思います。

 


プロフィール:

萩原智子(はぎわら ともこ)

1980年、山梨県生まれ。
山梨学院大学大学院修了。
小学校2年生から水泳を始め、高校時代にはインターハイの200m背泳ぎで3連覇を達成。
2000年、シドニーオリンピックに出場し、200m背泳ぎで4位、200m個人メドレーで8位入賞を果たす。
現役引退後は、スポーツアドバイザーとして、スポーツ団体等の役員を務めながら、メディア出演や講演活動等も行っている。
山梨県・福島県・愛知県春日井市で萩原智子杯水泳大会を開催。
水泳の普及活動をはじめ、水の大切さと感謝の思いを伝える「水ケーション」の活動にも注力している。
20247月には、自身初の絵本『ペンギンゆうゆ よるのすいえいたいかい』(文芸社)を出版。1児の母。

https://hagitomo.com/

その他の記事