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環境対策専門の委員会を設立
2024年の夏に開催されたパリオリンピック・パラリンピック(以下:「パリ2024」と表記)。世界中から集まったアスリートたちが勝利を目指してプレーする姿に、数多くのドラマが生まれ、世界中の人々に感動を与えました。
特に本大会は、スポーツという側面だけでなく、環境問題への取り組みについても大いに注目が集まる大会でした。IOC(国際オリンピック委員会)がオリンピックの持続可能性等を高めるために採択した改革プラン「オリンピックアジェンダ2020」。これを具体化する初の大会となったのが「パリ2024」なのです。
フランスは本大会の開催のために「Ecological Transformation Committee(環境変革委員会)」という環境対策を専門に扱う委員会を設立。本委員会はソルボンヌ大学教授で生物多様性専門家のジル・ブフ氏を会長として、気候専門家・循環経済の専門家・持続可能な建設の専門家・持続可能なケータリングの専門家等の9人で構成されています。
また、パリ市長のアンヌ・イダルゴ氏は開催に伴うCO2排出量を削減するため、フランスの石油会社トタルにスポンサーにならないよう勧告するなど、CO2削減に向けて本気で取り組む様子が伺えます。
こうした背景から「パリ2024」は史上最も環境に配慮したオリンピックを目指し、様々な施策を実施しました。例えば、会場へのペットボトルの持ち込み禁止、競技会場や選手村には100%再生可能エネルギーを供給、会場の95%を既存の建物や仮設インフラで開催するなど、その施策数は数十にも及ぶと言われています。
Olympic Agenda 2020 | IOC公式(外部リンク)Ecological Transformation Committee | PARIS2024(外部リンク)Paris aims to host the most sustainable Olympics ever – here’s how the city is preparing | World Economic Forum(外部リンク) This article is more than 4 months old‘Greenest ever Games’: how the Paris Olympics hopes to inspire a new era of global sporting events | The Guardian(外部リンク)
使い捨てプラごみ削減のために
製造・輸送・廃棄その全ての工程において、温室効果ガスを発生させる使い捨てプラスチック。「パリ2024」では使い捨てプラスチックの削減施策を強く推進しました。
会場にはペットボトルの持ち込みを禁止し、代わりに無料の飲料水ポイントを設置し、マイボトルに給水できるよう配慮しました。また、フランスの容器メーカーの協力を得て、オリンピック期間中に再利用可能な2,000万個ものリユースカップを供給。他にも会場で提供される飲み物、アイスクリーム、テイクアウトの食事など、すべての容器やカップは再利用できるものを採用しました。
「マラソン・プール・トゥー」という一般向けのマラソンイベントでは、初のプラスチックを一切使わないレースを試み、ランナーは再利用可能なカップで水分を補給し、約40万本のペットボトルを不要にしました。
Olympic, Paralympic Games will serve beverages in reusable packaging | recycling today(外部サイト)Green Games: single use plastics banned for Olympics and Paralympics | PARIS(外部サイト)
リサイクルプラスチックの再利用
プラごみは排出しないことが最も大切ですが、既に出てしまっているプラごみを有効活用することも大切です。「パリ2024」の競技会場であるポルト・ド・ラ・シャペルにあるアリーナ、サン=ドニの「オリンピック水泳センター」では、合わせて約11,000席がリサイクルプラスチックでつくられています。これらの座席はパリ近郊のセーヌ=サン=ドニで収集された廃プラスチックを有効活用しているだけでなく、地域全体のリサイクル意識を高めることにも一役買ったと言われています。
Paris Olympics to give waste a second life with recycled plastic chairs | euro news(外部リンク)
95%既存のインフラを活用
これまでオリンピックの開催都市といえば、新しい競技場の建設やインフラの整備など大規模な工事が行われることが常識でした。2020年に開催が予定された東京オリンピック・パラリンピックでも開催に向け「国立競技場」をはじめ7つの施設が新たに建設されました。これ以前の「リオデジャネイロオリンピック」「ロンドンオリンピック」「北京オリンピック」でも同様に様々な新しい施設が建設されました。言うまでもなく施設の建設には、資源消費やエネルギーの利用、二酸化炭素など温室効果ガスの排出など、様々な環境への負担が伴います。
「パリ2024」では大規模な工事やインフラ整備に伴う環境へのダメージに配慮して、全会場の95%を既存の建物や環境に配慮した仮設会場を活用することで、新規建設を最小限に抑えました。仮設会場は一時的に組み立てられ、大会後に再利用するために解体される予定です。
東京五輪・パラ 3491億円の恒久施設は“レガシー”となるか | NHK首都圏ナビ(外部サイト)
観客・選手・スタッフの移動におけるCO2削減
オリンピック・パラリンピックは、国内をはじめ世界中から数百万人もの観客が開催都市に訪れます。これだけ大勢の人々が会場や周辺を移動するだけでも、そのCO2排出量は膨大なものになります。「パリ2024」では移動に伴うCO2を削減するための施策も施されています。
まず、選手やスタッフの移動距離を最小限に留めるため、会場の80%から半径10キロ以内の位置にオリンピック村を配置。さらにすべての会場は公共交通機関でアクセスできるようになっています。
また、新たに保護された88kmのルートを含む、418kmの自転車レーンネットワークを整備。主要なオリンピック会場を結ぶように設計されており、観客が自転車で移動できるよう配慮されています。競技会場に1万台分の自転車ラックを追加し、さらにオリンピック期間中は、2万台分以上もの臨時自転車駐輪場を用意しました。この自転車レーンネットワークは、エッフェル塔などの観光名所ともつながっており「パリ2024」が終わった後も市民や観光客が自転車で移動することが可能になっています。
All you need to know about Paris 2024 sustainability | IOC公式(外部リンク60 km of bike lanes to link all Olympic and Paralympic venues | PARIS(外部リンク)PARIS 2024 SUSTAINABILITY & LEGACY PRE-GAMES REPORT | PARiS 2024(外部リンク)Map detailing 415km cycling network for Paris 2024 unveiled in capital | inside the games(外部リンク)Hydrogen to Fuel Vehicles at Paris 2024 Olympics | HIL(外部リンク)
再生可能エネルギーの導入
「パリ2024」では、持続可能性への取り組みを強化するため、太陽光・地熱・風力といった再生可能エネルギーを100%使用しています。全ての会場で再生可能エネルギーが利用できるため、気候変動の一因となる二酸化炭素排出量を大幅に削減。水泳センターと選手村には太陽光パネルが設置され、選手村では従来のエアコンの代わりに地熱冷却システムが使用されています。
All you need to know about Paris 2024 sustainability | IOC公式(外部リンク)Choosing renewable energy | PARiS 2024(外部リンク)
「エアコンなし」「段ボールベッド」で話題となった選手村
大会中の選手たちの宿泊地となるオリンピック・パラリンピック選手村。「パリ2024」ではサン=ドニ、サン=トゥアン、イル=サン=ドニの 3 つの都市にまたがって選手村が建設されました。オリンピック期間中は 14,250人の選手、パラリンピック期間中は 8,000人の選手がこれらに宿泊します。
オリンピックが終了した現在、選手村に宿泊した選手たちの不満がSNSで話題を集めています。不満の内容は個人差がありますが、ベッドの寝心地の悪さ、暑さ、食事の質を訴える声が多いようです。そんな選手村はどのようにつくられたものなのでしょうか。
「パリ2024」の選手村の建物は、典型的なフランスの建築物と比較して炭素排出量を30パーセント削減。建築資材には木材とリサイクルプラスチックが含まれ、木材はすべて環境に配慮して管理された森林から調達され、少なくとも30%のフランス産木材が含まれています。
夏の暑さへの対策として、エアコンの代わりに地熱冷却システムを採用し、断熱ファサード、冷却床、緑地を組み込むことで屋外条件と比較して少なくとも 6 度の温度差を確保。
ベッドは「東京2020」で使われた日本の寝具メーカー「エアウィーヴ」製の段ボールベッドを採用。分解してコンパクトな状態で運ぶことができ、役目が終わった後はリサイクル可能という点で非常に環境に優しいベッドとなっています。
これら以外にも紹介しきれないほど様々な点で環境への配慮が施された選手村でしたが、一部の選手が不満の声を挙げていたように、アスリートの体調・コンディションを保つ施設という点ではまだまだ課題があるようです。この選手村は大会終了後、住宅として活用される予定となっています。
The Olympic and Paralympic village | PARiS 2024(外部リンク)All you need to know about Paris 2024 sustainability | IOC公式(外部リンク)パリで、最高の夢を。|airweave(外部リンク)
まとめ
2024年8月11日、パリ2024オリンピックは閉会を迎えました。「史上最も環境に配慮したオリンピック」を目指した本大会は、プラごみ削減や気候変動の一因となる温室効果ガスの削減など、様々な面から環境対策を実施。パリのイダルゴ市長をはじめ、運営側も本気で環境問題に取り組む姿勢が伺えるような施策内容だったと感じられます。また、本大会で実施された気候変動へのアプローチは「Coach Climat Événements」という無料ツールとしてまとめられています。フランスのすべてのイベント主催者が利用でき、他のスポーツイベントでも環境への取り組みを実施できるようレガシーとして残されています。
本記事の公開時はオリンピック・パラリンピックが終わってすぐの段階ですので「実際に本大会の環境対策がどこまで有効だったのか」「目標が達成されたのか」が検証されていくのはまだ先になるでしょう。そして、まだまだ改善点や問題点など解決すべき課題も多いと思います。
しかし、本大会の取り組みは今後のオリンピックだけではなく、世界中の多くのスポーツイベントが目指すべき、環境に配慮した大会運営の1つのロールモデルになるのではないでしょうか。アスリートや運営サイド、スポンサーやファンなどスポーツイベントに関わる全ての人が「パリ2024」の取り組みを意識して、自分たちでできることから取り組んでいくことが、気候変動をくい止めるための大切なアクションとなります。小さなことでもできることからはじめて、今後もスポーツやスポーツイベントを楽しめる地球環境を保てるようにアクションしていきましょう。
PARIS 2024 SUSTAINABILITY & LEGACY PRE-GAMES REPORT | PARiS 2024(外部リンク)
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